親知らずの抜歯

親知らずの抜歯

親知らずについて

痛みの原因や症状について

智歯周囲炎
親知らずは歯肉に部分的に被ったままになることにより不潔になりやすく、歯肉の炎症を起こしやすい状態となってしまいます。これを智歯周囲炎(ちししゅういえん)と呼び、20歳前後の人に発生する頻度の高い疾患です。智歯周囲炎の罹患率は25歳以降で32%と、24歳以前の16%から倍になるという報告や、59%の下顎智歯は智歯周囲炎の既往のために抜歯になっているとする報告があります。智歯周囲炎が周囲の軟組織や顎骨に広がると顔が腫れたり、口が開きにくくなったりすることがあります。

齲蝕
下顎智歯の齲蝕に関して、25歳を過ぎると第二大臼歯遠心(親知らずのの手前の奥歯の、親知らずと接する箇所)の齲蝕率が有意に高くなるとする報告や、口腔内に萌出もしくは半萌出している智歯をもつ中高年(52~74歳)の米国人2,003名の調査では、77%に齲蝕を認めたとする報告がある。すなわち、智歯は高い確率で経時的に齲蝕になるのです。

親知らずを抜歯する際の流れ

  1. レントゲン撮影
    レントゲン撮影
    まずはレントゲン撮影を行い、事前に親知らずの状態を把握します。血管や神経の位置、副鼻腔(上顎洞)との位置関係、親知らずの埋まり方や根の状態などを確認します。
  2. 麻酔
    親知らずを抜歯する前には必ず麻酔を行いますが、下顎の親知らずを抜歯する際には多くのケースで伝達麻酔と浸潤麻酔を併用し、なるべく痛みを出さないように配慮します。
  3. 親知らずの抜歯
    専用の器具で歯を揺さぶり、抜歯します。歯肉や骨に埋まっている親知らずの場合は、歯肉を切開して剥離したり、周囲の骨を削ったり、歯を小さく割ったりしてから抜歯する必要があります。
  4. 縫合
    親知らずを抜いた部分をきれいにした後、歯肉を切開・剥離した場合は元の位置に戻してくっつける、あるいは抜いた穴を小さくして早く塞がるようにするために縫合を行います。また、多くのケースで抜いた穴には止血用のスポンジを入れます。
  5. 圧迫止血
    30〜60分ほどガーゼを噛んでもらい、圧迫止血を行います。血液をサラサラにする薬を飲んでいる方は血が止まりにくいため、長めにガーゼを噛むようにご注意ください。
  6. 抜糸
    抜糸
    抜歯から1週間ほどが経過すると痛みや腫れはほとんど消失しており、縫った傷がくっついて傷口もだんだん塞がってくるため、抜糸を行います。
 

親知らずの抜歯について

抜歯すべき最適な時期

歯根破折、根尖性歯周炎や重度歯周病など、病的な歯は抜歯すべきというコンセンサスは得られていますが、症状のない親知らずの抜歯適応については、依然としてコンセンサスが得られていないのが現状です。ただし、加齢とともに骨は柔軟性が低下し、歯と骨が癒着する頻度は高くなりますので、加齢とともに抜歯の難易度は高くなる傾向があります。また、高齢になると、全身疾患を有する確率が高くなりますので、抜歯に伴う合併症の確率は高まります。

抜歯の難易度について

一般的には横向きに深く埋まっている(水平埋伏)親知らずの抜歯が難しい場合が多いですが、まっすぐ向いている(垂直に埋まっている)場合の方が難しい場合もあります。また、後方や逆性、舌側に傾斜している場合にはさらに難渋する場合があります。抜歯の難易度はレントゲン画像(パノラマエックス線画像)からある程度予測することが可能です。CT画像も併用するとより詳細な難易度評価が可能です。

少々専門的な用語も含みますが、一般的にパノラマエックス線画像で難易度の判定に使う項目は、

  • 傾斜度
  • 歯根の形態
  • 深度
  • 下顎枝の立ち上がり
  • 下顎管との位置関係
  • 第二大臼歯の傾斜度
  • 第二大臼歯の傾斜度

の7つです。

抜歯をお勧めする場合、必ずしも抜歯しなくて良い場合はどんなケースか。

何らかの症状があれば抜歯をお勧めするケースが多いですが、前述のとおり、症状のない場合の抜歯適応についてはコンセンサスが得られていません。親知らずの抜歯を積極的におすすめするのは、すでにトラブルが起こっている場合、もしくは後になってトラブルが予想される場合です。

放っておくと状況が悪化して抜くのが大変になることもあるので、下記の場合は早めの抜歯をおすすめします。必ずしも抜歯しなくて良い場合もありますが、短期的なことだけを伝えるのではなく、長期的な視点で患者さんの人生における健康を考慮し、抜歯しない場合のリスクについても伝えるようにしています。

抜歯をお勧めする場合
親知らずが頭を出していて、きちんと生えそうにない場合

親知らずが斜めに傾いている、横に倒れているなどしていて、かつ歯肉から一部歯が見えている場合です。この場合、最終的にきちんと生える見込みがなく、トラブルを起こす可能性が高いため、症状を出す前に抜歯をおすすめします。

虫歯になっている場合

親知らずそのものが虫歯になってしまっている場合、もしくは手前の歯に虫歯を作ってしまっている場合には早めの抜歯をおすすめします。

痛みや腫れを繰り返している場合

親知らずの周囲が炎症を起こして痛みや腫れを繰り返している場合です。

歯並びをずらしている、もしくはそのリスクが高い場合

親知らずが手前の歯を押してしまっていて歯並びがだんだんずれてきている場合、もしくは、いずれそうなる可能性が高い場合です。

顎関節症を起こしている場合

親知らずの噛み合わせが原因で顎関節症を起こしている場合です。

親知らずが歯肉や頬を傷つけている場合

親知らずが傾いて生えてしまっているなどして頬の粘膜を傷つけている、もしくは親知らずが向かい合わせの歯肉を噛んで傷つけてしまっている場合です。

嚢胞ができている場合

親知らずが骨に埋もれていて特に問題を起こしていなくても、レントゲン上で周囲に嚢胞を作ってしまっている場合には、将来のトラブルを避けるために症状がなくても抜歯をおすすめします。

必ずしも抜歯しなくて良い場合
まっすぐ生えてきちんと噛んでいる、もしくはそう予測される場合

正常にまっすぐ生えて、虫歯もなく向かいの親知らずときれいに噛んでいる場合、もしくは、いずれそうなると予測される場合には、わざわざ抜く必要はありません。しっかりとお手入れを続けてトラブルを起こさなければ経過観察を続けても問題ありません。

完全に骨に埋もれて問題を起こしていない場合

親知らず全体が骨に完全に埋もれて骨の一部のようになっている場合、トラブルを引き起こす可能性が高くないので、このような場合も抜く必要はありません。

抜歯後の注意点

抜歯後の注意点

抜歯後

  • 止血のためにガーゼを噛んでもらいます。数日間は唾液が赤く滲む程度の出血がありますが、出血を気にして何度も口をゆすぐと余計に出血します。
  • 抜歯したところは舌や指で触ると出血したり、ばい菌が入ったりしますので、刺激しないようにします。
  • 抜歯後2、3日が最も腫れますが、氷などで過度に冷やしすぎないようにしてもらいます。
  • 上の親知らずを抜歯した後は、鼻をかんだりくしゃみをこらえたりするのを控えてもらう場合があります。

運動・入浴

  • 数日間は激しい運動を控えてなるべく安静にしておく必要があります。痛みや出血につながります。
  • 当日のお風呂はなるべく湯船につからずシャワー程度にして下さい。長風呂は禁物です(血圧が上がると出血しやすくなります)。

食事・歯磨き等

  • 抜歯後はしばらく麻酔が効いています。麻酔が効いている間は誤咬する可能性があるので食事はなるべく避けてください。
  • 食事はなるべく抜歯したのとは反対側で噛み、しばらくは辛い物や刺激がある食べ物は控えるようにしてください。
  • 喫煙は血流に影響し治りが悪くなる要因となります。飲酒は治癒を阻害するものではありませんが、腫れや痛みの原因となりやすいので数日間は避けたほうが無難です。
  • 歯磨きは抜歯したところに当てないようにしてください(1週間程度)。

抜歯後の痛みや腫れについて

抜歯後の痛みや腫れについて

抜歯後の痛みや腫れの程度、期間について

痛みのピークは抜歯当日~翌日で、その後徐々に引いていくことが多いです。腫れ方は個人差がありますが、腫れのピークは痛みから少し遅れて2日後ぐらいです。抜歯後3、4日から1週間ほどで痛みや腫れは治まっていきますが、2週間ほどは若干の鈍痛が残ることもあります。また抜歯後、親知らずの部分に大きな穴が空いているために刺激が手前の歯に直接加わり、知覚過敏が起きることがあります

親知らず抜歯でよくあるご質問

親知らずはなぜきちんと生えないのか?

親知らずがきちんと生えてこない理由、それは、現代人の骨格の変化により顎の骨が小さくなってきたにもかかわらず、歯が小さくなっていないことにつきます。親知らずが生えてくる10代後半にもなれば、身体の成長はほとんど終わっていますから、顎の骨の成長も止まっています。そのために、親知らずがきちんと並ぶ場所がなくなり、斜めに傾いて生えていたり、生えてこられなかったりするのです。

親知らずがまた生えることがあるの?

親知らずは永久歯であるため、一度抜歯すると再度生えてくることはありません。

抜かないで治す方法はありますか?

虫歯や炎症の治療をして保存することはありますが、症状は繰り返しやすいです。

親知らずの抜歯前の注意は?

体調が悪い場合は抜歯を中止することがあります。抜歯の前日から飲酒は控え、十分な睡眠をとって体調を整えて下さい。

親知らずの抜歯は大体どのくらいの時間で可能ですか?

抜歯の難易度によりますが、15分~1時間(麻酔、止血する時間を含めて)ほどで抜歯を終えることがほとんどです。

抜けなくて途中で中止されることはあるの?

循環器症状などの全身症状の出現や気分不良などで抜歯を中断、中止する場合があります。また、抜歯中に麻酔の効きが悪い場合、予想外の出血がある場合、周囲骨との癒着が強い場合などで中断、中止する場合もあります。

親知らずが虫歯になると抜歯は難しいですか?

虫歯が進みすぎてボロボロになっている場合、器具が引っかかりづらいため、骨を削って抜く必要がある場合が多く、難易度が高くなります。

親知らずを抜くと小顔になる?

親知らずを抜歯して小顔になるケースが全くないとは言いませんが、それを期待して抜歯をするのはおすすめしません。親知らずを抜くと、その周囲の顎の骨が吸収する為、多少骨の出っ張りが引っ込むことがあるかもしれませんが、見た目に明らかに小顔になるということはそれほどないかと思われます。

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